9月2日

本番2日目である。 本番中の朝のサービスは、ターゲットタイムが10分と短いことや、前日の夜にしっかりとメンテナンスを行っていることもあり、その日の午前中に使用するタイヤの装着と、基本的な部分のトルクチェック、アライメントチェックのみで、すぐに車は出発する。


ブースの整理、清掃、タイヤ洗浄が終わった後、お昼までしばらく休憩時間になる。 今日は学生向けのスペシャルメニューは無しで、メカニックの方もゆっくり休まれていたり、他のチームの偵察にいかれたり、他のチームでステッカーをもらってきたりされていた。 しかしそんな時でも走っているラリー車のことを考えているのはさすがプロのメカニック。 マレーシアからいらっしゃっていたジャスさん(ニックネーム)は、ドライバーからのサイドブレーキの効きに違和感があるいう情報を元に、この時間ブレーキキャリパ-に取り付ける、ホイールの内側についた泥を落としブレーキへの噛み込みを防止する部品の改良版を製作されていた。
CUSCOメカニックの方が、同じADVANタイヤユーザーの奴田原選手のチームへ情報交換しに行くというのでついていってみた。 どうもA035eユーザーの中では、CUSCOチームが最も積極的にタイヤカットを施しているようである。 タイヤカットとは、トレッドパターンの一部を切り落とし、ブロックのサイズを小さくすることで、ブロックの剛性を落として発熱量を増やし、ウェット路面や軟質ダート路面でもより有効にグリップするようにするセッティング手法の一つである。 今回、陸別方面では特にLeg1で、結構な降雨量があったようで、柳沢選手はカットの入ったタイヤに好感触を得ていたようである。 タスカブースから横浜タイヤのブースに移動し、CUSCOメカニックの方が横浜のスタッフと情報交換をした後、その向かい側あたりにある田口選手のチームブースにフロントが大破したエボIXを見つけた。 なんと前日SS走行中に飛んできた!?鹿と衝突してしまったらしい。 動物との接触事故は時として車両に大きなダメージを与えることを目の当たりにした。 しばらく田口選手のブースで作業を見学していたら、なんと林さんが登場。 ヴィヴィオも前日に発生したEMPiのトラブルが修復しきれず、この日はスタートTC直後にリタイヤされていた。


お昼、今日は本番中のワークスのサービスを見学させてもらえるということで、自分はシトロエンプジョーまでが見渡せる、かつスバルのように人だかりができていない上にその時点で上位争いを繰り広げていたマーカス・グロンホルムの所属するフォードチームのブース前に陣取り、WRカーの到着を待つ。 しばらくするとWRカーが続々と到着し、次々とサービス作業が開始される。 中にはTCでコドラを降ろしてドライバーだけが先にブースに戻り、コドラはチームのスクーターで後から登場!なんてシトロエンもあったりして、時間への非常に強いこだわり、少しでもサービス時間を増やす工夫が見て取れ、なかなか興味深い。 サービス作業も、とにかくスムーズに作業が進み、非常に速いスピードで作業をしているのだけれど、そんなに急いで作業をしているようには全然見えない。 たまに時計を確認すると、作業スピードが見た目以上に速いため、多くの作業を見ていても時間がたっていないような錯覚に陥ってしまう。 そして車両を送り出した後、一瞬にして工具を清掃、整理して元通り片付けてしまう。 メカニックも極めるとこうなるのかと感心してしまった。
が、ここで一つ重大な問題が発生。 なんと、ワークスに見とれていたら自分たちのチームのサービスが始まる時間をすっかり忘れていた。 花島先生からお叱りのお電話を戴き、ダッシュでCUSCOブースへ戻り作業を手伝う。 ミスを挽回すべく昨日以上に迅速な作業を心がけたが、何度かメカニックの方の動きを邪魔してしまった。
今回のサービスでは、ドライバーがサイドブレーキの効きに違和感を覚えるということで、リアのブレーキパッドを交換、午前中に作成した泥落としの改良版の装着していた。 キャリパーも用意されていたがこちらは交換せず。 他にエキゾーストパイプ(フロント側)を交換した。 ルーティーンの作業に加え、トラブル対処作業があったにもかかわらず、邪魔をしてしまった自分に文句も言わず迅速に作業をされ、定刻どおりに車を送り出すCUSCOメカニックの方にはただ頭が下がるばかりでである。


午後、片付け作業を終えた後、メカニックの方がタイヤにカットを入れるところを見学していたら、CUSCOチームだけではなく、他のチームでも幅広く活躍されているエンジニアの方から、タイヤカット、タイヤの性能と内部構造に始まり、サスペンションセッティング、ECUセッティング、DCCDセッティング、エアロセッティングなど、ラリーに限らず、GTやフォーミュラでも通用する、マシンセッティングに関する非常に詳しいお話を伺うことができた。 ノートパソコンの画面上で実際に今回や他のラリー、レースで競技に使用されているマシンのセッティングデータを見せていただきながら、詳細に解説をしていただけ、これまで疑問に感じていた事項がいくつか理解でき、とても有意義な時間を過ごすことができた。


そして夜、無事に2日目を走り終え、マシンにも高負荷走行でダメージが蓄積されてくるはずである。 最終日に向けてサービスはここが正念場だ。 と、ここでトラブルが!? なんと、SS17,18で車両トラブルによりスロー走行していた前走車に追いついてしまい、思うように走れずアングリー状態だった柳沢選手、前日のスーパーSS全敗もあってか、この日のスーパーSSでは攻めの走りを展開、結果、非常に滑りやすくなっていた路面で左リアをガードレールにヒットさせ、テールレンズとその周辺外装を破損させてしまう。 ラリーという競技では、一般公道を走行するセクションがあることもあり、保安基準に抵触する灯火類の破損には迅速な補修が求められ、サービスがあったにもかかわらず灯火類を破損させたままで走行した場合には失格となる場合もある。 さらに、今回は昨日行ったルーティーンの内容に加え、フロントブレーキパッド、ブレーキローターの交換、エキゾーストパイプ(リア側)の交換、フロントトーの再調整も行われ、昨日にもまして忙しく作業をすることになった。 今回はだいぶなれてきた事もあり、交換するフロントパイプの準備、スペアタイヤを収納する為汚れや水が溜まってしまうトランク内の清掃、ランプポッド脱着のサポートなど、積極的に動くことができたが、CUSCOメカニックの方の動きもこれまで以上に速くなっており、そのスピードについていけないような部分もあり、周囲の人間の動きを正確に把握し、確実に意思疎通することの重要性を強く感じる事にもなった。
作業内容が多かった今回のサービスだが、同じ時間でトランスミッションの交換までやってのけてしまうというCUSCOメカニックの手にかかると、45分後には何事も無かったかのように車の破損も元通り、定刻どおり柳沢選手を送り出すことができた。 この後、オイル交換の作業を見ていてふと疑問に思いメカニックの方に質問をしてみた。 実は、Leg1でもLeg2でも、ミッション、リアデフのオイルは交換をされていたのだが、それ以外のオイル、例えばエンジンオイル等は交換していなかった。 自分のこれまでの知識では、通常オイル類の交換サイクルはエンジンとLSDが組まれているディファレンシャルではほぼ同程度と考えていた為、当然サービスでエンジンオイルも交換するものと考えていた。 しかし実際には、サービスに入ってくる車は油温が上昇しており、ミッション、デフはシフトチェンジ時のフィーリングやLSDの効きの点からそれでもなお交換する利点があるが、エンジンに関しては高温になって粘度が低下しているオイルを抜き、低温の粘度が高いままの新油を入れると、高温によって膨張している金属間にうまくオイルが馴染まず、エンジンをいためる可能性があるため、チェックをして問題がないようであればそのままもしくは補充のみの方がリスクを抑えられるため交換していないとの事だった。 またそれ以外の油脂類に関しても、ラリー中に走行する程度では、時間をかけて交換をしてなお利点が出るほど劣化することは無い為交換はしないようだった。


片付け、清掃が終わった後、ホテルに戻る前に、チーム補助車両用駐車場横にブースを構えていた高山短大のサービスを見学する機会に恵まれた。 同じ学生ということでその動きには注目をしてみていたが、さすがに学生のみでサービスを実施するだけのことはあり、CUSCOメカニックやワークスメカニックの動きには及ばない物の、しっかりと役割分担をしている事が見て取れた。 後で聞いた話によると、事前にかなり厳しい校内選抜を実施し、またルーティーンの作業に関しては相当な時間訓練を行った後にこの場にきているとの事だった。