8月31日

この日は夜のイベント、そして明日からの本番に備えて、車両の最終チェックを行った。 前日に車高とキャンバーをフラットベースにて正確に測定、調整してあるが、トーはまだ調整していなかった。 この日はトー調整を行ったのだが、タコ糸とスケールを使ってトーを測定していた。 この方法は、HOPPにあるB-DYNAのように車両に対する絶対的な数値を測定するのではなく、セッティングの基準としてタイヤ同士の相対的な数値を測定していたようだ。 過去のデータをしっかり持っている、名門チームだからこそ有効に使える手段であると感じた。 (厳密にはB-DYNAも仮想車体中心線に対する数値を測定しているので絶対値は計測できていないが・・・)
また、トーの測定はこの後、本番中のサービスでも毎回行っていた。 その際はSSTを用いて測定器をハブにセットし、レーザー光線を前後の対になる測定器に対して照射、あらかじめ正確に調整できている場合の光点位置をマーキングし、その位置を合わせることで調整を行っていた。


初日は、まずはチームのメカニックの仕事を見て欲しいということで、学生4名は感心してばかりで作業は何もしていなかったが、2日目に入り具体的な仕事をさせてもらえることになった。
仕事第1段はタイヤアルミの管理、洗浄、運送である。 今回我々が参加させてもらったラリージャパンは、SSがオールグラベルで構成されている。 ハイスピードでのグラベル走行は、マシンにも大きな負担をかけるが、タイヤアルミにも当然厳しい条件となる。 特にアルミホイールは、縁石に無理に乗り上げたりクラッシュをしたりといった非常事態が発生しない限りはひたすらブレーキダストとの格闘になるサーキットレースとは違い、ラインに出た岩を踏んでしまったり、タイヤが掻いた泥土がホイールとブレーキの隙間に入り込んだり、車両がジャンプした際に着地の衝撃を受け止めたりといった一般に非常事態とされる事項がラリー中は日常的に繰り返される為、その管理は非常に重要な仕事である。
走行後の車両から取り外したタイヤアルミは、当然のように汚れている。 それもたいてい、泥土が塊になってこびりついている。 CUSCOチームでは、横浜タイヤのADVAN A035e(205/65R15)をドライタイヤに、ADVAN A031(同サイズ) をマッドタイヤに使用(今回RALLY JAPANでは使用せず)しているが、使用するタイヤはチームが持ち込むのではなく、横浜タイヤが持ち込み、横浜のタイヤサービスブースにて組替えてもらっていた。 泥土の塊がこびりついているようなタイヤアルミでは、いくらタイヤのプロである横浜のスタッフでも、すぐに組替え作業を行うことができないし、バランス調整作業もできない。 そこで組換えサービスをお願いする場合はあらかじめタイヤアルミを洗ってから持ち込むわけであるが、このタイヤアルミ洗浄作業をやらせてもらえた。
洗浄作業自体は、ブラシや雑巾を使ってジャブジャブと水洗いする、特にどうということは無い作業である。 泥の塊の酷い物は、100円ショップで買ってきたという通称”三味線撥”(樹脂でできた調理用のヘラのようなもの)で掻き落とし、ホイールとタイヤサイドウォール部をきれいにする。 しかしただきれいにするだけでは無い。 洗浄と同時に、ホイールの亀裂、歪み、傷をチェックし、ホイールを再使用するにあたり問題になるような個所が無いか徹底的にチェックする。 特に本番用のホイールでは、1分1秒を争う全開走行中に万が一トラブルを発生することが無いように、たいした事は無い小さな歪み、傷のように見えても、必ずCUSCOのエンジニアに確認をしてもらい、駄目な物は除外する。
洗浄が完了したタイヤアルミは横浜のタイヤサービスブースへと運ぶ。 CUSCOチームからのオーダーによって、タイヤが組替えられるのをしばらく待った後、今度はCUSCOブースへ組換えが終わったタイヤを運ぶ。 組換えが終わったタイヤは、ほとんどの場合少し多めにエアが入っているため、CUSCOエンジニアの方に指示された数値にエア圧を調整し、エアバルブからの漏れが無いかを確認し、そのタイヤのコンパウンド、左右の別によって整頓、Noをマーキングし交換作業に備える。 Rally JAPANでは、ワークス、プライベーターの別によらず、使用できるタイヤ本数は最大で32本と規定されている。 CUSCOチームでは、タイヤ管理メモを作成し、そこにタイヤのナンバー、コンパウンド等の情報を書き込み、使用本数が規定を超えないように管理していた。
ちなみに、A031は競技向けに国内で市販されている物と同一のタイヤであるが、A035eは、国内バージョンのA035とは違う、内部構造、コンパウンドトレッドパターンをインターラリー用に専用設計したスペシャルバージョンで、CUSCOの柳沢選手以外ではタスカの奴田原選手などごく限られた選手にしか供給されていない。


初日はチームに合流したのが夕方になってからだったので、CUSCOチーム以外を見学する機会が無かったが、2日目はキャロッセ社長のご配慮でワークスチームのサービスとシェイクダウンを見学できることになった。 以前は、インターラリーではチェイスカーと呼ばれるサービス車両でスペアパーツやツール、メカニックを移動させ、スペシャルステージのゴール直後など車両へのダメージが想定される個所に臨時ピットを作り上げ、特にワークスチームなどは、クラッシュしてもSSさえ走りきれれば速攻で修理して走らせるようなことをしていたが、それにかかる費用の増大や、その費用を用意できるチームとできないチームの格差が問題視され、現在のWRCではサービスパークと呼ばれる指定されたエリア内でのみ車両のメンテナンスが行えるようになっている。 RALLY JAPANの場合は帯広市内、札内川にかかる愛国大橋の袂の河川敷にある北愛国交流広場内に設置され、ここではワークスチームから個人参戦のプライベートチームまで様々なチームのサービスを見ることができる。 また今回は隣接して帯広スーパーSSが設けられ、ここでシェイクダウンも行われた。
ワークスチームのサービスは、まだシェイクダウンということで比較的ゆったりとした雰囲気であったが、それでも我々整備科学生が半日かけて実習するような足回りの整備内容を10分そこそこで済ませてしまうなど、その効率の高いスムーズな作業には学べる、学ぶべき点が非常に多いと感じた。 特に、作業に必要な工具が、メカニックの人数分、メカニックが作業をする場所に、完璧に整理整頓されて用意されており、走行後の汚れた車両を整備している工具にもかかわらず、しっかりと清掃されており全く汚れがついていない点が強く印象に残った。 また、車両をメンテナンスする際まず初めにジャッキアップをしてリジットラックを設置するのが通常であるが、その為のジャッキ、リジットラックに各チーム様々な工夫を施しており、例えばアンダーガードが装着されているラリー車を持ち上げる場合に、より確実に持ち上げられるようお皿の部分の凹凸を無くし滑り止めを装着したジャッキを使用したり、補強をサイドシルにあらかじめ施しておき、そこにワンタッチで差し込むだけで設置が完了するリジットラックを使用したりしていた。 4輪ジャッキアップからリジットラック設置、ジャッキダウンまでわずか7,8秒で終了するそのスピードは圧巻の一言。
海外で開催されるラリーの中には、WRCのカレンダーに入っているラリーであってもスポット参戦のプライベーターがシェイクダウンを走行できるものがあるが、残念ながらRALLY JAPANでは、FIAのシード権をもつドライバーしかシェイクダウンを走行できない。 よって今回はワークスチームのグループA車両(WRカー)と、PCWRCのポイントがかかっているグループN車両のみの走行となり、走行している車両を見学できたのはこれらに限られた。 これらの車両にとって、帯広SSSのコースは幅も狭く、ペースノートに”1”とか”2”がいっぱい出てくるようなコーナーのRがきつい走りにくいコースになっていたが、さすがに世界を走るドライバー、こういった難易度の高いコースでも非常に高いスピードで走行していた。 話によるとフォードのマーカス・グロンホルムなんかは2周走ったらコースを覚えちゃったとかなんとか・・・ ここでは、車両との距離が近いこともあり、車両ごとのセッティングの差や、ドライビングによって変化する車両の挙動がとてもわかりやすかった。 レベルが違いすぎてあまり参考にはならなかったが・・・


夕方になり、CUSCOクの方々は明日に備えブースの整理、片付けをされていたが、学生はセレモニアルスタートを見学させていただけることになった。 RALLY JAPANでは、本番スタートの前日夜に、帯広駅前の西2条通りを封鎖し、特設されたポディウムからのラリー車スタート、パレード走行、その前後に各種イベントが実施されるセレモニアルスタートがあり、誰でもその場に行けばラリー車を間近で見ることができる。 セレモニアルスタートではゼッケンの逆順でスタートが切られるため、最後の方に登場するワークス勢は残念ながら見ることができなかったが、代わりに知り合いが何台か走って来た(笑)。 今年がホモロゲーション期限の最後になるピンクのスバル ヴィヴィオ(今回唯一の軽!)で出場の中野さんのコドライバーが、04年にもペアを組まれたインバルさんではなく、昨年まで奴田原さんと組んでいた林さんになっていたときはかなりびっくり。 また、余談ではあるが、このときCUSCOの幟をお借りし、それを持って柳沢選手を応援させていただいたが、その幟が目立っていて良かったと、翌日キャロッセ社長よりお褒めの言葉をいただけた。